取材日:2026年10月20日
2026-27シーズン新加入インタビュー SHグラント・ウィリアムズ選手
ラグビーワールドカップ2023フランス大会で頂点に立った南アフリカ代表のメンバーであり、現在もスプリングボクスの一員として活躍するSHグラント・ウィリアムズ選手が今シーズン、コベルコ神戸スティーラーズに入団。南アフリカ屈指の名門パール・ジムナジウム高校卒業時にプロ契約を得られず、アマチュアのクラブチームから這い上がってきたという異色の経歴を持つウィリアムズ選手は、度重なる挫折やワールドカップ直前の大怪我といった逆境を「決して諦めない」という強い意志で跳ね返してきました。来日から約3週間。再び南アフリカ代表として遠征に向かう彼に、日本での生活、自身の武器であるスピードの秘密、そして神戸Sで目指す目標について話を伺いました。
「目下の目標はただ一つ。スクラムハーフのライバルたちと
切磋琢磨しながら神戸スティーラーズの連覇に貢献する!」

グラント・ウィリアムズ
GRANT WILLIAMS
PROFILE
- 生年月日/1996年7月22日(30歳)
- 出身地/南アフリカ・パール
- 出身校/パール・ギムナジウム高校
- 過去の所属チーム/カレッジ・ローヴァーズ、シャークス
- ポジション/SH、WTB
- 身長・体重/174cm・80kg
- 代表歴/南アフリカ代表(31キャップ)※2026年10月20日時点
もうすでに日本語の勉強をはじめています!
来日から約3週間が経ちましたが、日本での生活はどうですか。
「毎日が刺激的で素晴らしい時間を過ごせています。実は過去にプライベートで日本を訪れたことがあったのですが、その時は日本の文化などを深く知る時間はあまりありませんでした。けど、今回は腰を据えて生活をスタートさせることができています。日々の生活が新鮮で楽しめていますし、妻もすっかり神戸での生活に馴染んでいます」
神戸という街の印象はいかがでしょうか。
「素晴らしい街ですね。宮崎合宿の後、1週間のオフがあったのですが、妻と一緒に三宮に出かけていって美味しいお店を探して食事をしたり、街並みを眺めながら散歩をしたりしています」
三宮以外にも、お気に入りのスポットは見つかりましたか。
「港の周辺、メリケンパークやハーバーランド…。ただ、チームメイトからは『神戸にはまだまだ行くべき場所がある』と言われています。これから時間をかけて、あらゆる場所を探索していきたいと思っています」
日本食についてはどうでしょうか。お気に入りのメニューはありますか。
「これについては迷うことなく答えられますね。焼肉が断トツです。プライベート旅行で日本に遊びに来た時にも焼肉を食べました。和牛のクオリティは信じられないほど高いですね」
日本語の勉強をはじめたと聞きました。
「チームメイトやスタッフとコミュニケーションを取るために、毎日少しずつ学んでいます。よく使うのは『お願いします』と『大丈夫です』。この2つはグラウンドでも、街中のお店でも万能に使えるので重宝しています。クボタスピアーズ船橋・東京ベイとのプレシーズンマッチの後、スプリングボクス(南アフリカ代表)の活動のために日本を離れなければいけないのですが、代表活動が終わったらすぐに神戸へ戻ってきます。日本語の勉強を再開し、さらにたくさんの言葉を覚えたいと思っています」
ラグビースタイルと成長できる環境に惹かれて入団を決意
世界中のラグビークラブから数多くのオファーがあったかと思います。その中で、日本のリーグワン、そしてコベルコ神戸スティーラーズを選んだ理由は何だったのでしょうか。
「理由はたくさんあります。まず神戸Sが昨シーズン、リーグワン優勝を果たし、非常に競争力のあるチームだということです。昨シーズンの試合映像を見ましたが、全選手がひとつのビジョンを共有し、スピード感あふれるラグビーをして勝利を収めていました。そのラグビースタイルやチームとしての完成度の高さに惹かれて。ここなら成長できると感じたことが理由の1つです」
神戸Sのラグビースタイルに惹かれたのですね。
「そうですね。神戸Sのラグビーは非常にテンポが早くてエキサイティングです。もちろん、今シーズンから新体制となり戦術面などにおいて変化はありますが、ボールを動かすアグレッシブなスタイルは変わりません。そこで自分の強みを活かすことができると思いました。そしてもう1つは、過去にこのチームに所属した南アフリカ出身の偉大な先輩たちの存在です。アンドリース・ベッカーやジャック・フーリー、そしてルカニョ・アムといったスプリングボクスでも活躍した選手たちが活躍したことを知っていました。特にアムからは整った練習環境や神戸の街のことを聞いていたからこそ、迷うことなくこのチームを選ぶことができました」
実際にチームに合流して、想像していたイメージと違いはありましたか。
「想像以上に素晴らしいチームだなと感じています。短い期間ではありますが、神戸Sの特別な強みがどこにあるのかが少しずつ見えてきました。それは選手やスタッフといったチーム内の結束だけでなく、スティールメイツや街との結びつきが驚くほど強いという点です。地域の人々が神戸Sを街の誇りとして愛してくれているのが伝わってきます。神戸Sが特別なチームであることがわかりました」
チーム内には、オールブラックス(ニュージーランド代表)でのプレー経験があるコーチや選手も在籍しています。南アフリカとニュージーランドといえば、国際舞台では最大のライバル同士ですが、チーム内での関係性はいかがですか。
「(笑)。確かにスプリングボクスとオールブラックスの間には、歴史的なライバル関係があります。ロッカールームや練習中に『2023年のワールドカップ決勝(南アフリカ代表がニュージーランド代表を破り優勝)の話はよそう』なんていう、ちょっとしたジョークやからかい合いはあります。でも、それはあくまでお互いに対する深いリスペクトがあるからこその、楽しい関係性です。けど、神戸Sのジャージーを着てグラウンドに立てば、国籍や過去の代表のキャリアなんて関係ありません。全員が神戸Sの勝利という目標に向かって集中します」
元オールブラックスで現役時代はウィリアムズ選手と同じスクラムハーフでプレーしていたアンドリュー・エリスヘッドコーチからアドバイスやあるいは洗礼のようなもの(笑)はありましたか。
「アンディ(アンドリュー・エリスHC)とは毎日、パスやキックの練習で競い合っています。現時点での勝負はアンディの方が多く勝っているのですが(笑)。でもこれには裏があって、彼は時々ずるをして私をハメてくるんです。というのは冗談ですが、彼のようなレジェンドのもとでラグビーができることも幸せですね」

日和佐選手から多くを学んで、さらなる高みを目指す
ウィリアムズ選手といえば、異次元の加速力とスピードが武器です。スピードはどのようにして培われたものなのでしょうか。
「幼い頃から短距離での加速には少し自信がありました。それを武器として意識し始めたのは、11、12歳の頃でした。当時は学校や地域の中で、私は圧倒的に足が速い選手だったわけではありません。もっと足の速い選手はたくさんいたのですが、当時のコーチたちが加速力とスピードを徹底的に磨けば、将来大きな武器になると助言してくれて、それから意識して取り組むようになりました」
プロになってからもスピードを上げるための特別なトレーニングは続けているのですか。
「シーズンオフの期間であっても、スピード向上のためのトレーニングは欠かさないですし、南アフリカではスピード専門のコーチの指導を受けています。その成果が今のプレーに繋がっていると思います。でも、自分自身のスピードが完成形だとは思ってはいません。もっと速くなれると信じてトレーニングを続けています」
神戸Sにはベテランの日和佐 篤選手をはじめ、能力の高いスクラムハーフが揃っています。
「日和佐さんは信じられないほどの経験値を持っていて、試合の流れを読む戦術眼、広い視野、卓越したゲーム理解力があります。私は心から日和佐さんをリスペクトしていますし、彼のプレーから少しでも多くのことを学びたいと思っています。実は彼と切磋琢磨できることも神戸Sに入団を決めた理由の1つでもあるんです」
ライバルでありながら、同時に学びの対象でもあるんですね。
「そうです。もちろん、私自身が先発として試合に出るために、日々の練習から100%のハードワークをしてベストな準備をします。だけど同時に、日和佐さんや徳田(健太)さん、同い年の(中嶋)大希、そして(上村)樹輝といった若いスクラムハーフの選手も含めて全員が同じ方向を向き、互いにアドバイスを送り合って高め合うことも重要です。スクラムハーフ陣全体のレベルが上がれば、それは神戸Sがより強く、より良くなるという結果に繋がると思います」
ちなみにグラント選手はスクラムハーフのほか代表ではウイングでもプレーしていますよね。
「ラグビーをはじめてからいろいろなポジションを経験しています。小学生の頃はスタンドオフやウイング、アウトサイドセンターでもプレーしました。その後もスタンドオフ、スクラムハーフ、そしてウイングを兼任していて。スクラムハーフに専念し始めたのは高校生になってからです。それ以降はスクラムハーフとチームの状況に応じてウイングを任されるという形でキャリアを築いてきました」
複数ポジションをこなした経験は、現在のスクラムハーフとしてのプレーにどのように活きていますか。
「各ポジションで必要なスキルが異なるので、幅広い経験が選手としての成長に繋がったと思います。現在もウイングやフルバックの位置に回ることがありますが、過去の経験があるから、どのポジションに立っても自分のスキルを柔軟に活かすことができていると感じています」
兄から教わった『Never give up』の精神が信条
2023年のワールドカップ優勝メンバーという輝かしい肩書を持つウィリアムズ選手ですが、高校卒業時にプロ契約を結べなかったという過去があるそうですね。
「あの時期は私の人生の中でも精神的に最もタフな期間でした。私の出身校であるパール・ジムナジウム高校はラグビーの名門校です。しかし、私にはどのプロチームからも声がかからず、アマチュアのクラブからキャリアをスタートさせるしかありませんでした。そこからステレンボッシュ、ダーバンのクラブチームでプレーし、そこでの活躍が認められてシャークスとプロ契約を結ぶことができて、最終的にスプリングボクスとステップアップすることができました」
苦しい時期にモチベーションを維持し続けられたのはなぜですか。
「家族の存在が大きかったですね。私の生まれ育った家庭環境は経済的に決して恵まれたものではありませんでした。そんな中でプロ契約をもらえず絶望していた時期でも家族はいつも私の可能性を信じて背中を押し続けてくれました。特に兄からのサポートは大きかったです。兄は私に『決して諦めない(Never give up)』という精神を教えてくれました。クラブチームでプレーしていた当時、私にはエージェントが付いていなかったのですが、兄はさまざまなプロチームの連絡先を調べて、私がプレーする機会を得るために尽力してくれたんです」
お兄様のその行動がなければ、今のウィリアムズ選手は存在しなかったかもしれないと。
「間違いないですね。兄が諦めずに力を尽くしてくれたからこそ、今私はスプリングボクスでプレーし、日本に来ることができています。私のモットーが『決して諦めない』ことであるのは兄の背中を見てきたからです」
その決して諦めない姿勢は、2023年ワールドカップ直前のアクシデントの際にも発揮されたのでしょうか。大会直前の試合で激しい脳しんとうに見舞われ、一時はワールドカップ出場が危ぶまれる報道もありましたが。
「非常にタフな出来事でした。けど、そこで諦めたら、これまで家族が支えてくれた苦労を台無しにすることになります。怪我の回復を急ぐことはできないけれど、心が折れることだけは絶対に避けようと諦めない姿勢を持ち続けリハビリに打ち込んだ結果、回復が間に合いワールドカップに出場することができました。あの経験を通じて私はさらに『決して諦めない』ことの重要性を深く学ぶことができたと思います」
私の持っているすべてのスキルセットに注目してください!
ワールドカップ優勝というラグビー選手として最高の栄誉を手にした今、次の目標というのは。
「今の最大の目標はただ一つ。神戸Sで頂点に立つことです。新しい国、新しいリーグで、新しい仲間たちと共にチャンピオンを勝ち取りたいと思います!」
リーグワンで個人的に対戦を楽しみにしているチームや選手はいますか。
「リーグワンには南アフリカ代表のチームメイトをはじめ、たくさんの南アフリカ出身の選手がプレーしているので難しいですが、あえていうならプレシーズンマッチでも対戦するS東京ベイですね。S東京ベイには南アフリカ出身の選手が多いですから。リーグワンという舞台で母国の仲間と熱い戦いを繰り広げたいです」
日本のファン、そしてスティールメイツの皆さまにどのようなプレーを見せてくれますか。
「私の武器であるスピードはもちろんですが、ゲームコントロールやパス、そして状況に応じたキック。私の持っているすべてのスキルセットをスタジアムのピッチの上でファンの皆さんにお見せしたいと思います。スタジアムに足を運んでくれたファンの皆さんに純粋にラグビーという競技の魅力を楽しんでもらえるように最高のパフォーマンスを発揮します」
最後にスティールメイツの皆さまへメッセージをお願いします。
「スティールメイツの皆さん、こんにちは!グラント・ウィリアムズです。 皆さんとスタジアムで会って、熱い応援を肌で感じられる日を本当に楽しみにしています。チームのためにハードワークを続け、すべての試合で最善の準備をして臨むことを約束します。今シーズン、スタジアムで神戸Sの魅力あふれる、エキサイティングでアグレッシブなラグビーをぜひ一緒に楽しみましょう!熱いサポートをどうぞよろしくお願いします」
さまざまな困難を乗り越え、ワールドカップの頂点を極めてなおハングリーであり続けるウィリアムズ選手。彼の言葉からはライバルたちへのリスペクト、そしてチームを勝たせたいという覚悟が伝わってきました。不遇の時代から自らの力で運命を切り拓いてきた俊足SHがチームに新たなエネルギーを注入し、神戸スティーラーズをどのような進化へと導いて連覇へと押し上げてくれるのか。世界を震撼させた俊足スクラムハーフがリーグワンで輝きを放つ瞬間をぜひスタジアムで目撃してください。

