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ロングインタビュー

2022年度退団選手インタビュー Part.1 有田 隆平選手&王 鏡聞選手

2022年度退団選手インタビュー Part.1 有田 隆平選手&王 鏡聞選手

有田 隆平

RYUHEI ARITA

2018年シーズン優勝の立役者のひとり。神戸スティーラーズに入団するきっかけは、山中 亮平選手からの誘いだったといいます。「怪我が多くて、当時は引退を視野に入れていました。山中のお陰で神戸スティーラーズに移籍することになり、優勝をはじめ、素晴らしい経験をさせてもらって、本当に感謝しています」と有田選手。今シーズンはプレシーズンにアキレス腱を断裂し、神戸スティーラーズに入団以来、初めて試合に出場することができませんでしたが、後輩への指導などベテランとしてできることをやってきたそう。「神戸スティーラーズでやり残したことはありません」とすがすがしい表情を見せる有田選手が在籍した5シーズンについて語ります。
(取材日:2023年5月11日)

PROFILE
  • 生年月日/1989年3月21日
  • 出身/福岡県筑紫郡出身
  • 経歴/つくしヤングラガーズ→東福岡高校→早稲田大学→コカ・コーラレッドスパークス→コベルコ神戸スティーラーズ(2018年度入団)
  • ポジション/HO
  • 2022–23シーズンまでのチームでの公式戦出場回数/32
  • 代表歴/日本代表(9キャップ)

引退を覚悟していたところから、優勝を経験できた。
神戸スティーラーズでやり残したことはありません。

改めて有田選手がコカ・コーラレッドスパークスから神戸スティーラーズに移籍することになったきっかけを教えていただけますか。

「大学時代の同期が結婚するということで、二次会に参加したんです。その時に、山中(亮平)と久しぶりに会って話をしました。当時、僕は腰の怪我をしていて、『そろそろ引退かな』というようなことをボソっと言ったら、山中が『神戸に来いよ』と。冗談だと思っていたのですが、あれよあれよと話が進んで、神戸スティーラーズに移籍することになりました。引退を覚悟していたところから、5シーズンもプレーできて、山中には感謝しかありませんね」

神戸スティーラーズに在籍した5シーズンはどうでしたか?

「まず5シーズンもプレーできるとは思っていなかったです。腰の手術をして、リハビリ期間中に、神戸スティーラーズに入りました。もともと怪我が多かったので、トップチームでどれだけできるのか、入団した当初は不安しかありませんでした。いつ引退してもいいと思いながら、悔いのない1年を過ごそうとラグビーに取り組み、試合にも出させていただき、優勝も経験できました。神戸スティーラーズでやり残したことはありません」

神戸スティーラーズに入って良かったと。

「もちろんです。神戸スティーラーズでの5シーズンは収穫しかないですし、充実したものになりました。どうやって自分のポジションを勝ち取ろうか模索し、意識が変わったことも大きかった。怪我が多く、サイズ、スピード、フィットネスもない中で、自分にしかできないプレーをやろうと考えるようになり、周りとコミュニケーションを取りながら、頭を使って、『ここにいてほしいな』と思うところにポジショニングするなど、気の利いたプレーを意識的にするようになりました。そこが僕と他のフッカーとの違いだったように思います。チームに貢献するため、いろいろと考えながら5シーズンもプレーできたことは自信になりました」

4月28日に行われた記者会見では、印象に残っている試合を聞かれ、初めて出場した2018年シーズン第1節NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(現・浦安D-Rocks)戦だと答えていましたね。

「実は、コカ・コーラレッドスパークスに在籍した7シーズンでは、開幕戦で勝利したことがないんです。初めての開幕戦での勝利ということもあり、印象に残っています。あと、2018年シーズンの夏合宿で行われたリコーブラックラムズ(現・リコーブラックラムズ東京)との一戦もよく覚えています。怪我からの復帰後、初めての試合で、ちゃんとプレーできるのかドキドキでしたね。なんとか自分の役割を全うでき、開幕戦から試合に出られることができたのですが、シーズンがはじまってからも緊張の連続で、毎日、生きた心地がしなかったです(苦笑)。チームには世界的な選手が多く、入団した当時は『とんでもないところに来てしまった』と思いました。スクラム、ラインアウトと、フッカーが起点になるので、そこでミスをせずに、バックスへボールを渡せば、日本や世界を代表する選手たちがトライにつなげてくれる。だからこそ、ミスができない。毎週しっかり準備をして、ほっとできるのは試合が終わった日の夜くらいでしたが、何ものにも代えがたい経験をさせていただきました」

開幕戦で勝利したことがないというところから、神戸スティーラーズに移籍してきて、ラストトップリーグとなった「トップリーグ2020」プレーオフトーナメント準々決勝まで負けなしという経験をされました。

「古巣では全敗もありましたし、降格、昇格も経験しました。そして、神戸スティーラーズでは全勝し、優勝も。自分でいうのも何ですが、これまでのラグビー人生で、ほとんどのことは経験したように思いますね(笑)」

神戸スティーラーズでのラストシーズンは、アキレス腱を断裂し、リハビリ生活となってしまいました。

「一緒にスクラムを組んできた平島(久照)さんやラグビーに取り組む姿勢などで影響を受けた橋本(大輝)さん、お世話になった2人がコーチに就任し、期待に応えたいという思いがあったのですが、プレーできずに終わり、申し訳なく思います。ただ、プレー以外の面でチームに貢献したいと思い、コーチ陣とコミュニケーションを取ったり、後輩にアドバイスしたりして、やれることはやってきました。そういう意味でも、怪我をしている中でもチームのためにやり切りました」

やり切った5シーズンで、もっとも印象深い思い出は何でしょうか。

「やっぱり2018年シーズンの優勝ですね。社員選手なので、会社の方々がとても喜んでくれました。サントリーサンゴリアス(現・東京サントリーサンゴリアス)との決勝戦は、作業着を着てグラウンドに出て、誇らしい気持ちになったことをよく覚えています。会社の方々が喜んでくることもモチベーションだったので、あの優勝はみんなを幸せな気持ちにできて、本当に嬉しかったです」

有田選手は大学時代も優勝を経験していますが、2018シーズンの優勝はまた別物でしたか。

「大学時代も嬉しかったですが、トップリーグでの優勝は格別でしたね。どんどん結束していき、あの時のチームは、強いチームというよりも良いチームだったと思います。準決勝でトヨタ自動車ヴェルブリッツ(現・トヨタヴェルブリッツ)を破った時に、ノンメンバーだった大橋(由和)さんが号泣していたんです。みんなが自分のことよりも、チームのことを最優先し行動していて、本当に良いチームだなと思いました。それに、ノンメンバーの実力も高くて、誰が試合に出ても遜色なかったと思います」

ここ2シーズンはなかなか結果が出ずに、苦しいシーズンになっています。ベテランから見て、何が原因だと思いますか?

「難しいですね。全員が自分自身のことにいっぱいいっぱいだったのかなと思います。優勝したシーズンは、みんながチームのために行動していました。けど、ここ2シーズンは、みんなが『勝たないといけない』と必死で余裕がなかったのかなと思います」

今後、神戸スティーラーズに期待することは?

「実力のある選手が揃っているので、あとは、やるかやらないか。全員が言い訳をしないで、どんなにキツイことでも立ち向かっていって、チームのために行動するようになったら、他チームにとって脅威になるんじゃないかな。あと、フッカーは、松岡(賢太)、山田(生真)、酒木(凜平)と若手が育ってきて、そこに北出(卓也)が復帰してくれると、さらに良い相乗効果が生まれると思います。フッカーの成長が楽しみですし、期待しています」

今後もラグビーを続けるのでしょうか。

「続ける予定です。神戸スティーラーズでたくさんのことを学び、良い経験をさせてもらったので、それを別の場所で活かしたいと思っています。今はチームを去る寂しさと、次のステージに向けてワクワクする気持ちと入り混じっています。もちろん、チームを出るからには結果を出さないといけないとプレッシャーも感じています」

チームメイトにメッセージをお願いします。

「納会の時にも言ったのですが、僕は神戸スティーラーズの力はこんなものじゃないと思っています。優勝したシーズンのような面白いラグビーをまた見てみたいですし、強い神戸スティーラーズの復活を楽しみにしています。あとは、山中、ヤンブーさん(山下 裕史)、日和佐(篤)さんとった同期や先輩は、やれるところまで現役を続けてほしいなって。おじさん(笑)たちが頑張っているから、僕ももっと頑張らないといけないと思います。この3人をはじめ、全員のことを応援しています。これからもお互いに頑張りましょう。そして、5シーズン、ありがとうございました。最後に、怪我からの復帰を支えてくれたスタッフにも感謝を述べたいと思います。腰や足、5シーズンの間にも大小さまざまな怪我をしましたが、素晴らしいスタッフのお陰で復帰することができました。ありがとうございました」

では最後にこれまで応援してくれたSteel Matesにメッセージをお願いします。

「どんな時でも熱い声援でチームを鼓舞してくれて、Steel Matesに支えられていると感じた5シーズンでもありました。神戸スティーラーズのファンは、日本一だと思います。これからもラグビーを続けますので、どこかで会った時は声をかけてください。神戸スティーラーズと、僕のことを引き続き応援よろしくお願いします!」

王 鏡聞

KYUNGMUN WANG

近鉄ライナーズ(現・花園近鉄ライナーズ)、宗像サニックスブルースでプレーし、2021年シーズン、「優勝を狙えるような強いチームで力を試したい」という思いで神戸スティーラーズへ。しかし、在籍した2シーズンは、なかなか「神戸ラグビー」にフィットすることができず、自分らしさを出すことができなかったと言います。『2番』を付けてグラウンドに立つことが叶わず、出場はリザーブでの8試合のみに終わりました。これからもラグビーを続けるという王選手は、神戸スティーラーズで経験したことや学んだことを今後に活かしたいと意気込みます。
(取材日:2023年5月11日)

PROFILE
  • 生年月日/1991年9月12日
  • 出身/韓国・京畿道
  • 経歴/養生中学(韓国)→朝明高校→大阪体育大学→近鉄ライナーズ(現・花園近鉄ライナーズ)→宗像サニックスブルース→コベルコ神戸スティーラーズ(2021 年度入団)
  • ポジション/HO
  • 2022–23シーズンまでのチームでの公式戦出場回数/8

日々学び、刺激を受けて、
あっという間の2シーズンでした。

2シーズンという短い間でしたが、神戸スティーラーズでプレーして何を感じましたか?

「優勝を狙えるような強いチームで自分の力を試したいと思って神戸スティーラーズに移籍しました。あまり試合に出ることができず、正直、悔しい気持ちはあります。ただ、『神戸ラグビー』に触れて、学ぶことが多くありましたので、これを今後のラグビー人生に活かしていきたいと思います」

出場した8試合は、すべてリザーブでしたね。

「『2番』を付けて出たかったという思いはあります。神戸スティーラーズには、有田(隆平)さん、昨シーズン退団したバラさん(平原 大敬)、デーヤン(北出 卓也)、松岡(賢太)、山田(生真)、酒木(凜平)と、良いフッカーが揃っています。有田さんは、オールマイティな選手ですし、デーヤンはセットプレーがうまい。松岡は、今シーズン、好調でした。そこで『2番』を取るだけの実力がなかった。それに、なかなか『神戸ラグビー』に慣れなくて、自分らしさを出すのが難しかったです」

一緒にスクラムを組むプロップも代表経験者が多かったです。

「ヤンブーさん(山本 裕史)、具(智元)くん、(山本)幸輝さん、イシさん(中島 イシレリ)。それに、昨シーズンは、ラッシーさん(平島 久照)もいました。フロントローは、とんでもなくレベルが高いです。代表経験のある選手と一緒にスクラムを組んで、いろいろと教えてもらい、学ぶことが多かったです。神戸スティーラーズでの2シーズンは、思うようなプレーができずに苦しかったですが、楽しいことや他のチームではできない経験もしました。これからもラグビーを続けますので、神戸スティーラーズで学んだことや吸収したことを活かしていきたいです」

いろいろな選手の名前が挙がりましたが、特に影響を受けた選手はいますか?

「若手からベテランまで、どの選手も意識が高くて、1人に絞ることはできないです。ヤンブーさんは、神戸スティーラーズの歴史や文化を教えてくれて、ラグビーに取り組む姿勢も見せてくれましたし、若手では(李)承信が良いチームを作ろうと一生懸命チームを引っ張っていました。みんなから影響を受けて、僕も頑張らないといけないと思いました。今、振り返ると、日々学び、刺激を受けて、あっという間の2シーズンでした」

あっという間の2シーズンの中で、印象に残る試合やチームイベントなどがあれば教えてください。

「一番印象に残っているのは、昨シーズンのプレシーズンマッチ東京サントリーサンゴリアス戦です。神戸スティーラーズに入団して初めて出場する試合でした。バラさんと代わってグラウンドに入り、そこでミスを連発してしまって…。怪我をし、約2ヶ月間のリハビリ生活を送り、復帰戦ということもあって、とても緊張していましたが、あまりにもミスが多くて自分でも驚くほどでした。特にラインアウトのスローイングがひどくて。スローイングに関しては、その後、(アンドリース)ベッカーコーチからアドバイスをもらいました。ベッカーコーチにも、いろいろと教えていただき、感謝しています」

—苦しかったけど、良い2シーズンを過ごせた。

「そうですね。成長もできましたし、今後の糧にしていきます!」

王選手が、来シーズン、神戸スティーラーズに期待することは?

「今シーズンは、苦しいシーズンになりましたが、みんながやってきたことは間違っていないと思います。なかなか結果が付いてこなかったですが、神戸スティーラーズのアタックは、トップレベルですし、トライを取る力はある。9位にいるようなチームではないと思います。落ちるところまで落ちたので、あとは這い上がるだけです。日本一になれるチームだと信じていますので、来シーズン、もう一度『神戸スティーラーズは強いチームだ』というところを見せてほしいです」

チームメイトにメッセージをお願いします。

「2シーズン、みんなと切磋琢磨してきたことは良い経験になりましたし、楽しい時間を過ごすことができました。来シーズンは、これまで以上に良いチームを作って、日本一になってほしいです。僕も頑張ります!」

Steel Matesとの思い出を教えてください。

「昨シーズン『Steel Mates感謝祭』に参加し、ファンの方を身近に感じることができ、改めてSteel Matesは心強い存在だと思いました。今シーズンの『Steel Mates感謝祭』は、サインや写真撮影などファンサービスもできて、チームを去る前に、皆様の応援に対してお返しができて嬉しかったです」

では最後にSteel Matesへメッセージをお願いします。

「2シーズンという短い時間でしたが、たくさんの応援をありがとうございました。神戸スティーラーズに入団し、Steel Matesともたくさんの思い出を作ることができました。皆さんがスタンドで応援してくれるから、僕らも頑張れます。これからも選手に熱い声援を送っていただきますよう、よろしくお願いします。2シーズン、本当にありがとうございました」

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