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ロングインタビュー

佐藤貴志選手インタビュー「チームとしては日本一、個人としてはリーグ戦150試合出場を目指す」

 取材日:2017年5月24日

佐藤貴志選手インタビュー「チームとしては日本一、個人としてはリーグ戦150試合出場を目指す」

PROFILE
  • 1981年6月10日生まれ(35歳)、大阪府枚方市出身
  • 寝屋川ラグビースクール→東海大仰星高→同志社大→ヤマハ発動機ジュビロ→神戸製鋼コベルコスティーラーズ(2010年入部)
  • ポジション/SH
  • 身長・体重/175cm・85kg
  • 2016-2017シーズンまでの公式戦出場回数(プレシーズンリーグ2015含む)/93(コベルコスティーラーズ入部以来に限る)
  • 代表キャップ/4

ファンの創出と選手の社会性向上のために活動を開始

5月8日に行われた神戸市立高羽小学校で行われたタグラグビー教室に同行させていただきました(オフィシャルサイトの「off-time SHOT」で公開中)。この活動は、佐藤選手が考案し、スタートしたそうですね。はじめたきっかけを教えてください。

「実は、以前所属していたヤマハで同じような活動をしていたんです。ヤマハの本拠地である磐田は、ラグビースクールの数も少なくて、ラグビーへの関心が低い。僕がいた頃は、まだ活動も手探りで、年に数回、小学校へ教えに行く程度だったのですが、それからどんどん規模が大きくなっていった。そのようなラグビープロモーション活動を身近に経験していたので、コベルコスティーラージに移籍してきて、普及という点において物足りなさを感じていました。それで、5年前、平尾(誠二)さん(元GM)に、小学校でタグラグビーを教える活動をしたいと計画書を持って提案させていただいたんです。平尾さんに賛同してもらって、それからスタッフの(今村)順一さんと一緒に活動をはじめました」

この活動の一番の目的というのは?

「コベルコスティーラーズはヤマハの場合と違って、周辺地域にラグビースクールがたくさんありますので、一番の目的は、コベルコスティーラーズの選手の魅力を知ってもらって、ファンを生み出すことです。それに、神戸市は、2019年に開催されるラグビーワールドカップ日本大会の開催地ですので、神戸開催試合の成功やラグビー界を盛り上げることにつながります。それと、選手の社会性の向上という面もあります。コベルコスティーラーズに入って感じたのは、ラグビーだけやっていればいいという選手が多いということでした。もちろん、僕らはグラウンドで結果を出さないといけません。でも、コベルコスティーラーズのチーム理念には「日本のトップの実力と品格を有し、神戸製鋼グループ従業員および地域社会に愛されるチームを目指す」という言葉があります。品格というと、高尚なイメージがありますけど、人として当たり前のことが当たり前にできるということだと思うんです。小学校へ行って、先生と挨拶をしたり、名刺交換したり、場の空気を読みながら人の前で話したりできるようになることで、社会性が育まれる。実際、僕もこの活動をはじめたことで、人の前で話すことができるようになったり、ネットワークの広がりを感じたりしました。選手にとってもプラスですし、学校にとってもプラス。Win-Win(ウィンウィン)の活動なんです」

確かにお互いにメリットがありますね。

「そうなんです。それに、チームというのは個人の集まりですから、個が向上すれば、チーム全体の質も上がる。あと、人前で話すことが苦手、という選手は結構多くって。タグラグビー教室で、人前で話すことに慣れていけば、チームのミーティングでも発言できるようになる。また、プロの選手は、引退後、社会性が求められますので、セカンドキャリアをサポートするプロジェクトにもなるのかなと思っています」

今後は若い選手が中心となり、運営していってほしい

ちなみに、活動は計画通りに進んでいるんでしょうか?

「計画より少しスピードが早いですね。最初は東灘区内だけで活動していたのですが、3年前から神戸市教育委員会と連携するようになり、昨年は神戸市内の19校の小学校を訪問して、今年は25校から依頼を受けています。想定していた以上に依頼数が多くって。神戸市教育委員会からは1単位45分の間で、ゲームまでできるようにしてほしいと要望があるので、それに応えつつ、なおかつ、質の高いものを提供していかないといけません。そのためには、それができる選手の数が必要です。僕がすべての学校を回ることはできませんし、ニック(イーリ ニコラス)、宣原(甲太)も頑張ってくれていますが、もっと選手を育てていかないと。今後は、チームプロジェクトとして、全選手がこの活動に参加し、その中でも、特に若い選手が中心になって運営してほしい。ジム(・マッケイヘッドコーチ)からは、このような活動がチームの輪を作っていくと賛同してもらっているので、さらに良い方向に進んでいくと思います」

これまでの活動で、大変だったことがあれば教えてください。

「子供たちの集中力をどうやって持続させるのか。そこは苦労しました。僕らは最初に子供たちに『人の目を見て、コミュニケーションを取りましょう』と言うようにしているんです。これは、子供たちが新しいことを学ぶ上で、集中して話を聞いてもらうために必要なことなのではないかと考え、教室の冒頭で言うようにしました。あとは、45分の中で、どうやってルール説明から実際に子供たちがゲームをできるようになるまでもっていくのか。そこも悩まされました」

では逆に、うれしかったことを教えてください。

「たくさんありますね。最後に子供たちから感想を聞いているんですが、『ラグビーって怖いと思っていたけど、勇気を出してボールを持って前に出たら、トライすることができた』とか、しっかりした意見が出るんです。単純にそういう言葉が聞けることもうれしいですし、試合会場で『シュガー、応援に来たよ』とラグビーを見に来てもらえることもうれしい。ラグビーに興味を持ってもらっているという手応えを感じています。今後は、僕たちが教えた子供たちの内、どれくらいの人数がスタジアムに足を運んでくれているのか、数字を取っているわけでないので、それをカウントできるようにしていきたい。もちろん、コストがかかることなので、今シーズンできるかどうかは分かりませんが、教えた子供たちの10パーセント以上がスタジアムに来てくれるようにしていきたいです」

昨年度でどれくらいの人数を教えたのでしょうか?

「約1400人の子供たちを教えました。この10パーセントでも140人です。観戦の際は両親も同伴されるだろうし、そうやって毎年ファンをどんどん増やしていけば、相当な数になります。コベルコスティーラーズファンの創出、選手の社会性の向上という意味でも、この活動を継続的にやっていきたいですね」

昨季はチームのアタックを優先し過ぎてしまった

素晴らしい活動ですし、これからもオフィシャルサイト等で活動を紹介していきますね。ところで、今シーズンに向けての意気込みなどを伺いたいのですが、佐藤選手は、コベルコスティーラーズでの公式戦出場回数(「プレシーズンリーグ2015」を含む)が93と、100試合が射程圏内ですね。

「数字はあまり意識していないですね。ただ、トップリーグでのリーグ戦出場回数がもうすぐ150試合なんです(143試合)。そこは少しだけ(笑)意識していますね」

−昨シーズンは、先発出場がなく、リザーブでの起用となりました。それについてはどのように感じていますか?

「選手である以上はスタートから試合に出ないと価値が下がります。だけど、個人的にはリザーブというのは気にしていないんです。途中から出場して、チームにエネルギーを与えるというのは僕のスタイルに合っていますので。実際、昨シーズンもそれができたと思います。ただ、試合数が減り、出場時間も短くなったのは事実なので、毎年、ヘッドコーチが代わっている中で、昨シーズンに関しては、春シーズン、夏合宿の間に信頼を勝ち取ることができなかったのかなと。そこは反省点ですね」

ヘッドコーチの話が出ましたが、昨シーズン、ジム・マッケイ氏がヘッドコーチに就任し、アタックにフォーカスしたラグビースタイルに変わりました。SHとして重視したのはどういうところですか?

「ジムから常に言われていたのが、ボールを早く動かすこと。そこはかなり意識しました。ただ、それを意識し過ぎて、"さばき"がメインになってしまったところがあって。チームのアタックの中で、自分の持ち味をどうやって出していくか。僕は身体も大きいですし、そういう良さをもっと出していけばよかったんじゃないかと。この年でなんですが(苦笑)遠慮してしまって、チームのアタックを優先し過ぎたなって。今シーズンはバランスを考えてプレーしていきます」

個人もチームも毎年成長し続けている!

チームについては、昨シーズンも一昨年前と同じく4位という成績に終わりました。3位、4位という成績がここ数年、続いています。

ファンの方からすると、チームはずっと停滞しているように見えていると思うんです。でも、そうじゃない。確かに、苑田(右二)さん以降、ギャリー(・ゴールド)、アリスター(・クッツエー)、そしてジムとヘッドコーチが毎年代わっていますが、その年その年で学んだことを積み重ねていっている。ラグビースタイルの違いがある中で、キックやディフェンスが良くなって、昨年、ジムが来て、アタックのエッセンスが加わり、また新たに上乗せされました。間違いなくラグビーの質は向上していると思います。それに、個人も成長している。みんな、ウエイトやフィットネスの数値が上がっていますし、チーム全体の、ラインブレイク数も、タックル成功率も、トライ数も上がっています。ただ勝てていない。じゃあ、なぜ勝てないのかというと、周りのチームも同じように成長していっている。そのスピードの差はあると思うんです。でも、僕たちは常にトップ4にいて、戦いのリングには立っています。優勝するためには、今シーズンは昨シーズン以上にすべての数字を上げないといけないですし、また、昨シーズンは何試合か勝たないといけない試合を落としていますので、キーとなる大事な試合で、しっかりパフォーマンスを出せるようにしていきたい。コベルコスティーラーズは勝てるチームですので、今シーズンこそ、優勝します」

ベテランとしてチームを牽引していってくださいね。そして活躍を期待しています。では、最後に今シーズンの抱負を聞かせてください。

「チームとしては日本一。そして個人的にはリーグ戦150試合出場ですね。今年で36歳になりますが、まだ成長していると思っています。フィットネスも伸びているし、経験値も上がってきている。それをグラウンドで表現していきます」

佐藤選手のモットーは、「ベテランが成長しないと、チームは進化しない」ですもんね。

「成長し過ぎて、身体が痛いくらいですよ(笑)」

成長した姿をトップリーグで見られるのを楽しみにしています!ありがとうございました!

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