戻る

  • INSTAGRAM
  • twitter
  • facebook
  • YouTube
  • LINE
  • tiktok

KOBELCO

close-up KOBE -Long interview-

ロングインタビュー

福本 正幸チームディレクター 退団インタビュー

 取材日:2024年9月19日

福本 正幸チームディレクター 退団インタビュー

選手として神戸製鋼ラグビー部の黄金期を支え、2000年からは副務、そして主務として、チーム運営を仕切りながら、ファンクラブの立ち上げやグッズ販売、今では恒例となったフェスタなどさまざまなイベント運営、そして試合へのプロモーション活動などを担当し、現在のコベルコ神戸スティーラーズのファンエンゲージメントの基盤づくりに奔走しました。2007年から4年間、日本ラグビーフットボール協会へ出向し、ジャパンラグビー トップリーグの競技運営ディレクターとしてリーグ運営に従事。その後、社業へ復帰してチームから離れていましたが、平尾 誠二氏(前GM)逝去後の2017-2018シーズンからチームディレクターに就任しました。
「ゴリさん」の愛称でスティールメイツからも親しまれている福本TDが9月30日をもってチームを退団し、ジャパンラグビーリーグワンのチーフラグビーオフィサー(CRO)に就任することに。選手、スタッフ、チームディレクターとさまざまな立場でチームに貢献されてきた福本TDが大切にしてきたものとは。そして、スティールメイツへの感謝の思いとは。ゴリさんからのラストメッセージをお届けします。

「リーグワンの運営にも、平尾前GMから受け継いだ
『おもろいラグビー』の精神を取り入れて皆様の心を熱くします!」

福本 正幸

MASAYUKI FUKUMOTO

PROFILE
  • 生年月日/1967年10月16日生まれ
  • 出身地/大阪府大阪市
  • 経歴/大阪府立天王寺高校→慶應義塾大学→神戸製鋼所(1990年入社)

『スティーラーズらしさ』=『おもろい』精神を追求

コベルコ神戸スティーラーズを退団されるにあたり、今の心境をお聞かせください。

「2018-2019シーズンに15年ぶりのトップリーグ優勝を達成しましたが、リーグワンがはじまってから苦しいシーズンが続いています。昨シーズンよりディレクターオブラグビー/ヘッドコーチにデイブ・レニーを招聘してチーム再建を託し、1年目を終えて、まずは土台づくりが整ったと、復活の手ごたえを感じていました。今シーズンはさらにチーム力を高め、細部のプレー精度を上げて優勝争いに食い込めるチームをつくろうと意気込んでいましたが、4年目を迎えるリーグワンで、さらなる成長に向けて基盤を固める新たなフェイズに入るにあたりCROの公募があり、『チームの立場でもっと改善すべき点や自身の過去のトップリーグでの経験が生かせるのではないか』『日本ラグビーの発展のために役に立ちたい』との思いから、チームや会社とも相談した上で、CROの公募に手を挙げることにしました。2024-25シーズンに向けてチームが活動を始めているタイミングで退団することに申し訳ない気持ちはありましたが、後任として、同期でスクラムを一緒に組んできた弘津 英司にチームを託せることも安心材料となり、リーグ行きを決断することができました」

リーグワンCRO就任にあたり、どのような思いがあったのでしょうか。

「リーグワンには今シーズン、ディビジョン1から3まで全26チームが所属しています。各チームそれぞれに色んな背景があり、さまざまな思いを持って活動をしていますが、過去3シーズン、神戸スティーラーズのチームディレクターという立場でリーグワンとかかわってきた中で、リーグとチームの一体感をもっと醸成できると感じていました。リーグワンに所属する全チームが同じビジョンに向かって協力し助け合いながら、リーグをさらに発展させていけるようにまとめていきたいと思っています」

福本TDは2007年から2010年までの4年間、日本ラグビーフットボール協会に出向し、競技運営ディレクターとしてトップリーグ運営にも携わっています。

「トップリーグは協会主導の全国社会人リーグであり、リーグが主導してチームをリードしていました。各チームもお互いに協力し合いながらリーグと連携を取り、私自身もどのチームとも仲良く楽しくお付き合いさせていただいていました。シーズンの最後にはリーグと全チームが一緒になってチャリティーマッチを開催するなど、ラグビーならではの素晴らしい活動も行っていました。このように、リーグ、チームがひとつになって、社会に貢献できる活動をリーグワンでも再開したいと考えています」

福本TDはこれまで神戸製鋼ラグビー部、神戸製鋼コベルコスティーラーズ、コベルコ神戸スティーラーズで3世代にわたり、チームにかかわられてきました。チームスタッフとして、チームディレクターとして、どういうことを大事にされてきたのでしょうか。

「チームディレクターに就任した当初、目指すべきチーム像について自分の中でもあまり具体化されていませんでした。ただ、私はこれまでの人生で『文武両道』を大切にしてきたので、現役時代は『ラグビーと仕事の両立を図ること』を目標に日々どちらにも手を抜かずにチャレンジしていました。チームディレクターとなり、コーチ探しをしている時に初めてニュージーランド代表でヘッドコーチを務めた経験もあるウェイン・スミス(現ラグビーコーチメンター/チームアンバサダー)に会い、この人にチームを託せるかを判断するためにこの『文武両道』の考えを伝えたところ、彼もその意見に賛同してくれました。その時に彼から教えられた言葉が『Better people makes better All Blacks』という言葉です。『オールブラックスでもラグビーだけでなく人間性を大切にしているのか!』と強く感銘を受け、その時から私は『ラグビー選手は選手である前に良い人間であること』ということを大切にしてチームづくりの根幹としています。もうひとつは『おもろい』ことに取り組むことです。トップリーグ元年の2003-2004シーズンから吉本興業と業務提携し、ファンクラブの設立やグッズの製作、試合へのプロモーションなどに取り組んできました。より良いものをファンに提供しようと考える中で、お客様に『神戸はおもろいことやってファンを大切にしている』と思ってもらえるような企画を自分たちも楽しみながら次々と打ち出しました。平尾さんも『おもろい』ことを大切にされていたので、ラグビーでもイベントでも『おもろい』感性を大切にするチーム文化が根付いていたと思います。当時は意識して『おもろい』ことを提供している感覚がありませんでしたが、いま振り返るとこれが『スティーラーズらしさ』になっていたと思います」

『スティーラーズらしさ』=『おもろいラグビー』ということでしょうか。

「平尾さんが追求してきた『おもろいラグビー』の精神。それは『スティーラーズらしさ』の1つであるんですね」

ウェインも持っていた『おもろいラグビー』の精神

2018-2019シーズンの優勝の功労者であるウェイン・スミス総監督(当時)がチームにもたらしたものは大きいように思うのですが。

「ウェインの功績や影響力は絶大です。それにウェインのラグビーに対する考えは、平尾さんと同じでした。ふたりのラグビー論は、『グラウンドをワイドに使い、スペースにボールを運ぶラグビー』であり、このようなラグビーは、プレーしている選手たちはもちろん楽しいですし、見ているお客さんもワクワクして楽しめるラグビーです。それに、平尾さんもウェインも、何よりも『ラグビーを楽しもう!』という意識が非常に強くて、チーム全体に『楽しむ』という意識が広がりました。2017-2018シーズンにチームディレクターに就任した時に、平尾さんとも面識があったウェインが、平尾さんが亡くなられた後のチームのことを心配し、彼の方から声をかけてもらったことがウェインとの出会いのきっかけですが、ウェインには心から感謝していますし、私自身、彼から多くのことを学ぶことができました」

2017-2018シーズン、チームディレクターになった時はチームを強くしないといけないというプレッシャーがあったのでしょうか。

「ないと言えば嘘になりますが、私も長らく現場を離れ、チームディレクターの仕事も初めてでしたので、何をしたらよいのか全くわからず、ただただコーチや選手たちが力を最大限に発揮できるように全力でサポートしようと意味もなく走り回っていましたね」

忘れられない最高の瞬間というのは、やはり2018-2019シーズンの優勝になるのでしょうか。

「優勝できたことはもちろん嬉しかったのですが、“最高の瞬間”と言えば、そのサントリーサンゴリアス(当時)との決勝戦の試合前、選手たちがグラウンドに入場する時に神戸製鋼所の作業服を着てグラウンドに現れた時ですね。あのシーズンのチームは、ウェインが持ち込んだレガシー活動によって、会社やチームの歴史や文化を学び、それを誇りとして自分たちもチームや仲間のためにハードワークしようという熱い思いで、チームの結束を高めて来たので、その象徴となる光景でした。これは準決勝に勝利した後に、クーピー(アダム・アシュリー=クーパー)から『決勝戦は作業服を着て社員たちと一緒に戦いたい!』と申し出てきたことがきっかけで実現することになりました。来日2年目の外国人選手が『神戸製鋼の社員』を自分たちの仲間であり誇りであると考えているからこその申し出でした。これを聞かされた時は、めちゃくちゃ感動して心が熱くなりました」

反対に大変だったことは。

「新型コロナウイルスの感染が拡大し、トップリーグ2020が中止になった時です。チームディレクターとして決断に迫られることが多く、誰も経験したことのない事態の中、来日している外国人選手とその家族を速やかに且つ無事に帰国させるという方針をすぐに決めました。スティーラーズは選手と家族を大切にするチームであるという点でもリーグNo.1を目指していますので、リーグが中止判断を行ってすぐに、所属する外国人選手、スタッフ全員とその家族を母国に帰すことを決め、急いでフライト手配を行い、皆が無事帰国することができました。その直後にニュージーランドは全土でロックダウンを実施しましたので、DC(ダン・カーター)やアンディー(アンドリュー・エリス)らは、未だに当時の対応に感謝してくれます」

2021-22シーズンにはスクラムの強化に長年携さわってきたスティーブ・カンバランドヘッドFWコーチが急逝されるという悲しい出来事もありました。

「亡くなる前日に熊谷ラグビー場で行われた埼玉パナソニックワイルドナイツ戦も普段通りチームに同行していましたので、一報を受けた時は信じられなかったです。チームディレクターとしてできることは、彼は単身で神戸に来ていたので、1日も早くニュージーランドにいるご家族のもとへ帰してあげることです。コロナ禍で平時より煩雑な手続きが多い中、フロントスタッフが一生懸命手を尽してくれて、灘浜グラウンドから彼の乗る車を送り出すことができました。カンビー(スティーブ・カンバランドヘッドFWコーチ)は誰よりも優勝を望んでいましたので、私の在任中にその報告ができなかったことは非常に残念に思いますが、カンビーの愛弟子である平島(久照スクラムコーチ)が、彼の遺志を継いでスクラム強化を担ってくれています。平島がチームの優勝に貢献してカンビーに報告してくれることを期待しています。また、カンビーが亡くなる1年前の2021年4月には、40年以上チームとかかわりがあったウエカドスポーツの上門 俊男さんが闘病生活の末に逝去されました。上門さんは私が入社する前からチームのサポートをしてくださっていて、私も現役時代から大変お世話になっていました。いつも練習後には季節の果物を差し入れしていただいたり、合宿に出発する日は毎回、奥さんと一緒に人数分のおにぎりを握って用意してくれたり、チームでBBQやイベントを企画するといつも食材を用意して調理もしていただいたりと、スポーツショップという括りでは収まり切らない活動でスティーラーズを支え続けていただきました。現在は上門さんの遺志を継いだ光安 健悟さんに同じくサポートしていただいております。チームを支えてくれた上門さんに1日も早くスティーラーズの常勝チーム復活を報告できる日を心待ちにしています」

福本TDがこれからチームに期待することは。

「どの選手もスティーラーズの一員として、優勝に向けて切磋琢磨しながらチーム力を高めてくれています。また、グラウンド外でも小学生の見守り活動や清掃活動をはじめ、ラグビーの普及活動や社会貢献活動にも積極的に取り組み、ラグビー選手としてだけではなく、人としても愛され尊敬される選手となれるように意識を高く持ってくれています。これからも神戸スティーラーズの目指すべく『おもろいラグビー』を体現し、スティールメイツや地域の方々、パートナー企業の皆様にとって愛される存在になるべく、邁進してほしいと思います」

スティールメイツの応援が心にしみた2022-23シーズン

福本TDはスティールメイツともかかわることが多かったですが、印象に残っていることはありますか。

「9位とトップリーグがはじまってからもっとも成績の振るわなかった2022-23シーズンのスティールメイツの応援が一番心に沁みましたね。2003-2004シーズンにトップリーグで優勝してからなかなか勝てない時代が続きましたが、それでも4位、5位には入ることができていましたから。そして、2018-2019シーズン、15年ぶりにトップリーグの頂点に立ち、スティールメイツ、会社、地域の皆様と優勝の喜びを分かち合うことができました。ただ、トップリーグ2021以降は結果を出せなかったこともあり、あのシーズンは、チームをいち早く始動させて、レガシー活動をするなどチームカルチャーの面でも、ラグビー面でも、しっかり準備してリーグワンの戦いに臨みました。でも、勝てない。しかも、ふがいない試合が多く、チームディレクターとして悔しさを感じていました。実は何度か試合に敗れた後、帰り道でスティールメイツから声をかけられたことがあるのですが、『ファンを辞めます』と厳しい言葉をかけられてもおかしくない内容だったにもかかわらず、『次は頑張ってください。これからも応援しています!』と励ましていただいて…。小さなお子さまから選手の似顔絵を描いた手紙を手渡された時は、「試合結果はどうあれ、こんなに小さなお子さんも一生懸命応援してくれていたんだ」ということに気づかされ、感動し、勇気づけられたこともありました。9位になった2022-23シーズンは、選手、スタッフにとってなかなか思うような結果を出せずに歯がゆいシーズンでしたが、スティールメイツも同様にフラストレーションのたまるシーズンだったと思います。それでもチームに対して深い愛情を持って応援していただいて、スティールメイツの存在は本当にありがたいと感じました。もちろん、2022-23シーズンのような思いはしたくないですし、そうならないようにしないといけません。これからも引き続きコベルコ神戸スティーラーズを応援していただければ幸いです」

最後になりますが、スティールメイツの皆様にメッセージをお願いします。

「スティールメイツの皆様とともにもう一度優勝の喜びを分かち合いたいと思っていたのですが、この度、ジャパンラグビーリーグワンへ行くことを決断し、それに伴いチームを退団することになりました。皆様の応援には多大なる力をいただいて来ました。改めて感謝申し上げます。チームディレクター後任の弘津とは、同期入社で私が『1番』、彼が『2番』と隣同士でスクラムを組んで苦楽を共にしてきた仲です。彼は現役時代、100試合を越える公式戦に出場しスティーラーズのV7を支えてきたレジェンドのひとりであり、私よりも深く『スティーラーズ』を体感しています。そして、ラグビーでも仕事でも、そして人間としても心から信頼できる人間です。彼なら平尾さんから受け継いだ『おもろいラグビー』や『スティーラーズらしさ』をさらに磨き上げてチームに落とし込み、毎シーズン、優勝争いできるチームを作り上げてくれることと思います。私は、チームからリーグワンに活動の場を移して、平尾さんの精神をリーグ運営にも取り入れて、NTTジャパンラグビー リーグワンの試合は『おもろい!』と感じていただけるようCROとして全力を尽くします。また、神戸スティーラーズの試合会場でお目にかかることもありますので、見かけられたらぜひ声をかけてください!これからはリーグワンをもっと熱く盛り上げていけるよう頑張ります!」

ジャパンラグビーリーグワンのチーフラグビーオフィサーとして、平尾前GMから受け継いだ「おもろいラグビー」の精神を取り入れて、リーグワンを盛り上げると約束してくれた福本TD。神戸スティーラーズからは離れますが、これからはリーグワンのCROとして全国のリーグワンの試合会場に足を運ばれるそうで、スティールメイツと会えることを楽しみにされていました。ゴリさんの手腕に大いに期待しましょう!

loading